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東北の被災地を支援するカタールフレンド基金

カタールフレンド基金(QFF)は2011年の東日本大震災による東北の被災者の援助活動を支援するために、寄付1億ドルをもとに設立された。

カタール国首長シェイク・タミーム・ビン・ハマド・アール・サーニ殿下主導のもと、基金は子どもたちの教育、水産業、健康、起業家支援の4分野を対象とする12のプロジェクトに資金援助を行なってきた。

必要不可欠な水産業

東北の人々にとって、地震と津波によって大きく損害を受けた生活と経済再建のためには水産業の復興と発展が不可欠だ。

カタールの伝統的な漁法にちなんで名づけられたマスカーは、宮城県女川町にある魚類の多機能冷蔵貯蔵施設で、QFFが初めて支援したプロジェクトとして2012年に建設された。

女川魚市場買受人協同組合の石森洋悦副理事長は、港にあるその津波対応型施設は地元の事業者に安心感を与え、事業を再開するきっかけになったと話した。

石森さんは冷蔵庫が地上にある従来型の平屋施設では津波の際に魚類の原料と商品に大きな損害を与える可能性があり、津波への恐怖を感じさせ、ここで事業をすることをためらわせたと説明した。

だが、日本財団の協力を得て、大成建設が建てた3階建てのマスカーには6,000トンの冷蔵庫が2階にある。さらに、ここは1階の外壁が津波の際に外れ、津波が通り抜けるようになっている。

2,500万ドルかかった施設が建設された後、石森さんは「どんどん魚の加工工場がこのあたりにできて、復興に向けて一歩を踏み出せるようになりました」と語った。

マスカーのおかげで、自身が思っていたよりも産業と町の復興が急速に進んでいると石森さんは話した。「マスカーはわれわれの復興の象徴です」

一方で女川町の復興をさらに加速させるため、QFFは10月3日、須田善明町長と同町での小中一貫校建設に10億円を提供するとの覚書を結んだ。

持続可能な自然

子どもたちの教育はQFFが力を入れて支援に取り組む重要な分野だ。660万ドルの支援を改装にあてたモリウミアス・ルサイルは子ども向けの宿泊施設で、宮城県石巻市雄勝地区にある1923年に建てられ、廃校となった学校を利用している。

森と海に囲まれ、去年7月にオープンしたこの雄勝の施設は、サステナビリティをキーワードとし、自然との暮らしや自然の循環を子どもたちに経験してもらうことを目的にしていると、理事の油井元太郎さんは説明した。

モリウミアスは「森」「海」と「明日」を意味する日本語の組み合わせで、アスには文字通りusをかけていて、ルサイルは歴史的に重要なカタールの都市にちなんでいる。

彼はモリウミアスでの滞在で子どもたちは、森林では間伐や植樹、海ではカキ、ホタテ、ホヤなどの魚介類を地元の漁師ととるといった漁業活動、田畑では農作業を行なうと語った。

油井さんはまたこの場所が地元民を含めた人々をつなぐ場所になり、特に2011年3月の震災以降人口減に悩むこの地区の発展にも貢献できると話した。

「この施設の主たる目的は子どもたちへの教育ですが、交流によってこの地区が元気になっていけばいいと思います」と彼は語った。

また彼は、QFFは多くの人がその中東の国について知るきっかけをくれたと言い、この施設が両国の交流をさらに深めることにつながればと考えている。「できれば年内にカタールの子どもたちを呼びたいと考えています」と油井さんは話した。

理系教育

仙台にある東北大学工学研究科はQFFの支援を受け、2014年7月にカタールサイエンスキャンパス(QSC)というプロジェクトをスタートさせ、子どもたちに高度な科学研究を体験させ、一流企業によるものづくり教室に参加してもらっている。

工学部は小学生向けの科学プログラムを実施してきたが、内容は基礎実験に留まっていたと、大学院工学研究科准教授でQSCのコーディネーターの山口健さんは話した。

「子ども向けの科学プログラムを拡充させたかったのと、被災地の子どもたちの教育の質を確保したかった」と、山口准教授はQFFに支援を申請した理由を語った。「加えて、理系の道を進み、ものづくり産業を担いたいという若い人材を育成したかった」とも。

260万ドルの支援を利用し、工学研究科は270度投影できるプロジェクターを備えたQSCホールや、この施設に必要な電力の一部を発電するパネルのあるソーラーバレーなどの施設を設けた。

QSCを開設したおかげで、研究科はつながりをさまざまな企業に広げることができ、「体験型科学教室」を週末中心に開催するようになった。教室の内容は、プログラミングやバイクのエンジンの構造を学ぶ、ロボットのワークショップ、カメラのレンズを作る、などがある。

QSCのプロジェクトが提供するプログラムには、宮城県内のものづくり関係の会社を生徒が訪問する「ファクトリーツアー」、大学内で行なう「ラボツアー」などがある。

QSCのプログラムの参加者は前年度の2,454人から2015年度には3,125人に増え、このプロジェクトはうまくっているといえる。

「QSCはシンボリックな啓蒙拠点になり、子どもたちは来るのを楽しみにしています」と山口准教授は誇らしげに語った。

QSCは11月にカタールから15名の生徒を1週間の研修に招いた。両国の異文化と教育の交流を進めるため、将来さらなる訪問が計画されている。

実社会を体験する

さまざまな教育の機会を与えるほかの方法として、QFFは仙台市と福島県いわき市でエリム(アラビア語で「教育」)の建設に630万ドルを拠出した。これは非営利のジュニア・アチーブメント日本との共同のプログラムで、児童・生徒に実際の状況で職業を体験させたり、給料をどのように使うか考えさせるものだ。

両都市にあるエリムでは、小学生は「スチューデントシティ」と呼ばれる場所を、中学生は「ファイナンスパーク」という場所を訪れる。

前者では、児童は擬似環境でお店や事務所で仕事をし、事業を行ないながら社会の仕組みを学ぶ。後者では生徒は年齢、家族構成、年収が決められた状況を与えられ、自身の人生設計を行ない、収入内でどうお金をうまく使えばいいかを学ぶ。

仙台市は社会的・職業的に自立した人間を育てるための一環としてのキャリア教育をさらに推進するためにこのプログラムを活用している、と市教育局学校教育部の多賀野修久さんは説明した。

多賀野さんは、QFFの支援は長期的な視野からキャリア教育の意義を再考する貴重な機会を与えてくれ、市は感謝していると話した。

多賀野さんによると、仙台では2014年8月の開設以来、約1万4,000人の小学生が、約8,000人の中学生がこのプログラムを体験したという。

起業家精神を養う

イノベーターはローカルなコミュニティだけでなく、社会にプラスの影響を与えうると考え、QFFは起業家の育成を重視している。

この目的のため、INTILAQ東北イノベーションセンターが1,480万ドルの支援を受け2月に仙台郊外に建設され、IMPACT Foundation Japanが運営している。この団体は日本の次世代グローバルリーダーの育成に尽力してきた。Intilaqはアラビア語で「スタート」や「立ち上げ」を意味する。

センターではワーキングスペースやオフィススペース、講義や会議用の部屋を有料で提供している。また利用者がオンラインで配信できる放送スタジオを備えている。さらには、110人まで収容できる階段教室もある。

「アントレプレナーシップは、広義には『新しいことにチャレンジする』という一歩踏み出す精神そのものを意味します」とINTILAQ東北センター教育ディレクターの佐々木大さんは強調する。「新しいことにチャレンジしたいという人をここに集め、そういう精神を広めたいです」と。

開設後、INTILAQはさまざまなセミナーやワークショップなど40あまりのイベントを実施し、1,000人ほどが来所したと佐々木さんは話した。

「小さいときから起業家精神を育むことが大切だと思うので、子ども向けの起業家ワークショップに積極的に取り組んでいきたいです」と佐々木さんは語った。INTILAQではすでに、小学生向けの会社を作るというワークショップや高校生と大学生向けにイノベーションについてのセミナーなど、若者向けのイベントを開催している。

佐々木さんはこの施設が東北の起業・起業家のハブとなり、世界とつながるようにしたいと抱負を述べた。


Qatar Friendship Fund Relief Projects in Tohoku

2. カタールフレンド基金、教育、水産業と健康分野での支援

3. 友情と誠意から設立された基金